吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ― 世界陸上 編―

2025年10月2日

吾輩は猫である ― 世界陸上 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

このところ人間どもは夜更かし気味だ。
どうやら「世界陸上」とやらが開かれており、
テレビの前で声を上げては拍手をしている。

画面には、風のように駆ける人々の姿。
筋肉がしなやかに躍動し、
スタートの銃声とともに飛び出す様は、
まるで野良猫が魚屋に突進する瞬間のごとし。

吾輩は思わず比べてみる。
百メートル走なら、人間より吾輩の方が速い。
高跳びだって、机から棚へひと跳びで軽々と超える。
だが人間は、自らの限界を競い合い、
世界一を決めることに誇りを見出す。
その執念こそ、猫には真似できぬものであろう。

リレーでバトンがつながると、
飼い主の目が潤んでいた。
仲間と心を合わせる姿に、
吾輩もなぜか胸が熱くなる。
猫は孤独を愛する生き物だが、
人間はこうして絆を力に変えるのだ。

夜更け、競技が終わり静けさが戻ると、
飼い主はソファで眠り込んだ。
吾輩はその膝に丸くなり、
夢の中で走者とともに風を切った。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが今日だけは、
人間の情熱にしっぽを掲げて敬意を送ろう。

走る影 月を追い越す 人の夢


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gonta

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