吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ― 白髪 編―

2025年10月20日

吾輩は猫である ― 白髪 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

鏡の前で飼い主がため息をついた。
「最近、白髪が増えたなあ」と。
頭を傾けては毛をかきあげ、
まるで季節の変わり目でも迎えたかのように、
その一本一本を気にしている。

吾輩は足元で毛づくろいをしながら思う。
白くなるのは、悪いことではない。
吾輩の毛並みだって、若い頃より少し薄く、
ところどころ銀のように光ってきた。
けれど、それは月の光を宿した勲章のようなものだ。

若さは風のように駆け抜け、
年輪は静かに積もっていく。
人も猫も、白い毛が増えるたび、
優しくなる気がする。
昔より少し遅く動き、
昔よりずっと深く見る。

飼い主は髪を染めるか迷っていたが、
結局そのままにした。
「まあ、これも私らしいかな」と笑う。
吾輩はしっぽを立てて同意した。
色よりも、光をどう映すかが大事なのだ。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが今夜ばかりは、
月に照らされるその白髪が、
とても美しく見えた。

白き毛に 時のぬくもり 宿りけり


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gonta

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