【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

吾輩は猫である ―賞与 編―

2025年12月26日

吾輩は猫である ―賞与 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

その日は朝から、飼い主の歩き方が少し軽かった。
鼻歌まじりでコーヒーを淹れ、
スマホを何度も確認している。
――これは何かある。

昼過ぎ、
飼い主が小さくガッツポーズをした。
「出た……!」
どうやら“賞与”なるものが支給されたらしい。
人間界のご褒美制度である。

吾輩はすぐに理解した。
この日は、
・帰りが少し早く
・機嫌が良く
・夕飯がやや豪華
になる確率が高い。

案の定、
夜にはいつもより良い缶詰が開いた。
「今日は特別だよ」
その言葉を、吾輩は何度聞いたことだろう。
だが“特別”が何度あっても困らないのが猫である。

飼い主は湯呑みを手に、
「全部使っちゃダメだよな……」
「貯金もして……」
「でも、たまにはね……」
と独り言をつぶやく。

吾輩は膝に乗り、
その揺れる心を感じ取った。
賞与とは、
単なる金額ではない。
努力が報われたという、
一瞬の実感なのだ。

やがて飼い主は吾輩の背を撫でながら言った。
「君のご飯代も、ここからだね。」
吾輩は喉を鳴らした。
――それなら、この制度も悪くない。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが知っている。
人は報われると、
少しだけ優しくなる。

賞与日に 缶の音増える 夏の猫


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gonta

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