吾輩は猫である。
名前はまだない。
今日は、
少し様子が違う。
ブラシが出て、
ハサミが光り、
人間の動きが妙に慎重だ。
どうやら、
トリミングらしい。
猫は本来、
自分で整える。
毛づくろいという
立派な技を持っている。
だが、
人間は時々
手を出したくなるらしい。
ブラシが入る。
毛がふわりと舞う。
嫌ではない。
だが、
好みでもない。
整えるとは、
難しいものだ。
やりすぎれば、
不自然になる。
足りなければ、
手入れにならぬ。
人間は、
毛の量を見て、
形を見て、
慎重にハサミを入れる。
その姿は、
少しだけ
庭師に似ている。
自然を整えるのは、
自然を消すことではない。
本来の形を、
少しだけ助けることだ。
やがて、
ブラシは終わり、
床には毛が残る。
吾輩の分身のようだ。
体は軽くなり、
風の通りがよくなる。
それもまた、
悪くない。
吾輩は猫である。
整えられるのは
少し不思議だ。
だが、
丁寧な手つきなら
受け入れてやろう。
刃入らず
ブラシひとつで
春の猫