吾輩は猫である。名はまだない。
飼い主が、
見慣れぬ袋を取り出した。
それは、
普段のおやつよりも、
少しだけ“本気”の匂いがする。
――怪しい。
「これ、好きでしょ?」
そう言って差し出されたそれは、
柔らかく、
温度もよく、
触れた瞬間に
こちらの警戒心を溶かしにかかってきた。
吾輩は一歩、距離を取った。
学習している。
最近の食べ物には、
裏がある。
だが、
嗅覚が告げる。
これは、
かなり良い。
飼い主は静かだ。
急がない。
追いかけない。
ただ、
そこに置く。
――ずるい。
吾輩は思案した。
これは罠か。
それとも、
条件付きの和平交渉か。
一口。
……うまい。
二口目で、
何かが混じっていることに気づいた。
だが、
味は壊れていない。
違和感も、最小限。
吾輩は判断した。
今回は、
飲み込もう。
食べ終えたあと、
飼い主は満足そうに頷いた。
「えらいね。」
その言葉に、
胸が少しだけ温かくなった。
吾輩は猫である。名はまだない。
だが今日、
誇りよりも、
賢明さを選んだ。
うまさ先 誇り後回し 猫の知恵