吾輩は猫である。名はまだない。
最近、動きは少しゆっくりになった。
跳ぶ前に考え、
歩く前に周りを見る。
それを人は「歳をとった」と言う。
吾輩は「慣れただけだ」と思っている。
長く生きるということは、
速さを競わぬことだ。
勝ち負けを忘れ、
無理を引き算し、
今日を確実に終えること。
若いころは、
音がすれば走り、
影が動けば跳んだ。
今は、
本当に必要な音だけを選ぶ。
それは衰えではなく、
選択である。
飼い主は言う。
「長生きの秘訣って何だろう。」
吾輩は答えない。
秘訣は語るものではなく、
続けるものだからだ。
食べ過ぎず、
焦らず、
嫌なことからは距離を取る。
眠れるときに眠り、
撫でられたいときだけ寄る。
それだけのことだ。
長寿とは、
奇跡の連続ではない。
小さな無理を、
毎日しなかった結果である。
吾輩は猫である。名はまだない。
だが今日もここにいる。
それが、
長く生きた者だけが持つ、
いちばん静かな誇りだ。
急がずに
今日を重ねて
長寿猫