吾輩は猫である。名はないが、庭に咲くものにはうるさい。
この季節、裏の縁側に座っていると、ふんわりと香る甘い匂い。
人間が「和バラ」と呼んで愛でている花である。西洋のバラと違い、どこか控えめで、楚々として、花びらの重なりも柔らかい。まるで、おだやかに微笑む猫のまぶたのようだ。
「花が好きって言っても、トゲがあるのがいいのよ」
と飼い主が誰に言うでもなくつぶやいた。なるほど、なるほど。
人間は、刺があるのに手を伸ばす。それはきっと、少し不器用で、でも勇気ある証なのだろう。
吾輩にはトゲもなければ、香りも出せぬが、静かに咲く花を見ることは好きである。
咲く前はつぼみで、咲いたら儚く、散るときも静か。
それはどこか、猫の生にも似ておる。
和バラは決して派手ではない。だが、雨に濡れても美しい。
風にゆれても、決して折れず。
そんな花に、吾輩はしっぽをくるりと巻いて、そっと寄り添う。
人間がいつか、バラのように強く、猫のようにしなやかになれたら――
この庭も、もっといい場所になるだろう。
和バラは 猫の心に 似て咲けり