吾輩は猫である。名はまだない。
このあいだ町を歩いていたら、
見慣れぬ看板に出会った。
「ゼッテリア」とある。
どうやら新しい店らしい。
人間が列を作り、
揚げたての音と香ばしい匂いが漂っていた。
吾輩は鼻をひくひくさせた。
ハンバーガーにチキン、フライドポテト――
どれも猫の口には縁遠いが、
匂いだけで腹が鳴る。
人間たちは楽しげに袋を抱え、
「安い!」「うまい!」と声を弾ませる。
思えば、人間の食の流行は目まぐるしい。
タピオカに列をなしたかと思えば、
今はゼッテリアで歓声をあげている。
猫の食は変わらぬ。
朝も昼も夜も、カリカリと水と、ときどきおやつ。
だが変わらぬ日常こそ、案外ありがたいのかもしれぬ。
吾輩は店先でじっと佇み、
ポテトの香りに包まれながら、
人間たちの楽しげな顔を眺めた。
食は腹を満たすだけでなく、
心をも浮き立たせるものらしい。
吾輩は猫である。名はまだない。
それでも願わくば、
ゼッテリアの香りが人と猫を少しでも幸せにするなら、
悪くないと思うのだ。
新しき 匂いに揺れる 猫の腹