吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ―猫パパ編 ―

2025年8月17日

吾輩は猫である ―猫パパ編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。
だが、“父”である。

ある日、路地裏で小さな鳴き声がした。
ふと見ると、まだヨチヨチ歩きの仔猫が三匹。
母猫はいなかった。
置いていかれたのか、亡くなったのか。
吾輩は迷った末――そこに座った。

「父になろう」と決めたのは、
べつに偉いことではない。
ただ、ほっておけなかったのだ。

最初の夜は、仔猫たちが吾輩の尻尾で遊んで眠った。
次の日は、エサ場を案内した。
三日目には、カラスから身を挺して守った。

誰かが言った。
「オス猫にしては、面倒見がいいな」

吾輩は応えない。
だが、仔猫が無事に生きていくことが、何より大事なのだ。

子どもたちはすぐに大きくなる。
木に登るようになり、
吾輩を追い越して走り、
魚を自分で探すようになった。

ある日、一匹が言った。
「ねえ、おとうさんって、何?」

吾輩は少し考えてから答えた。
「そう呼ぶ必要はない。
でも、おまえたちの背中に風が吹くとき、
その風を後ろから和らげてやる存在が、
たぶん“父”だ」

今も、どこかの塀の上で
吾輩は仔猫たちの成長を見守っている。

名はまだない。
だが――
吾輩は、猫パパである。


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gonta

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