吾輩は猫である。名はまだない。
人はこの街を「聖地」と呼ぶ。
秋葉原。
電気の街であり、
趣味の街であり、
祈りにも似た情熱が集まる場所だという。
吾輩が初めて足を踏み入れたとき、
空気が少し震えているように感じた。
看板はまぶしく、
人の流れは速い。
だが、その奥に、
一点に集中した“まなざし”が無数に存在している。
ガラス越しに並ぶフィギュア、
棚に積まれた同人誌、
イヤホン越しに流れる音楽。
人々は皆、
自分の「好き」を守るために、
ここへ巡礼してきているのだ。
吾輩は路地裏で立ち止まり、
静かな場所を見つけた。
表通りの喧騒とは別の、
ほっとする沈黙がそこにはあった。
聖地とは、
叫ぶ場所ではなく、
黙って大切なものを抱える場所なのかもしれぬ。
飼い主が小さく言った。
「ここに来ると、元気出るんだよね。」
吾輩はうなずいた。
理由は分からぬが、
“分かってもらえる場所がある”という感覚は、
生きる力になる。
吾輩は猫である。名はまだない。
だがこの街で知った。
好きなものを好きと言える場所は、
誰にとっても聖地なのだ。
ネオン越し 守る想いの 聖地かな