吾輩は猫である。名はまだない。
冬になると、
テレビの前で飼い主の声が少し大きくなる。
芝生の上を、若い人間たちが走っている。
白い息、赤い頬、
そして、やけにまっすぐな目。
――高校サッカーである。
彼らはよく走る。
意味があるのか、
得なのか、
そんなことを考える暇もなく、
ただ、仲間の声に反応し、
ボールを追う。
吾輩は思う。
猫なら、
あそこまで走らない。
だが、
走らねばならぬ時があることは知っている。
逃げるためではなく、
守るために走るときだ。
点が入る。
歓声が上がる。
ベンチが跳ねる。
そして、
点が入らなくても、
泣く者がいる。
負けたからではない。
出し切ったからだ。
飼い主がぽつりと言う。
「いい顔してるな。」
吾輩はその横で目を細めた。
勝ち負けよりも、
一瞬の全力が、
人を強く見せるのだろう。
試合が終わり、
彼らは整列し、
深く頭を下げる。
あの所作は、
未来へ進むための区切りだ。
吾輩は猫である。名はまだない。
だが、この冬、
走りきった背中を見て思った。
若さとは、
無駄を恐れず、
今を信じ切れる力なのだと。
冬芝に 全力残し 夢進む