吾輩は猫である。名前はまだない。
最近、
毛がよく抜ける。
床にも、椅子にも、
人間の黒い服にも、
季節が残る。
人はこれを、
換毛期と呼ぶ。
体は正直だ。
暑さでも寒さでもなく、
その“途中”に、
一番変化が出る。
皮膚がむずがゆく、
気分も少し落ち着かぬ。
そんな折、
部屋の空気が重くなる。
見えぬが、
確かに、澱む。
吾輩は知っている。
毛は体を守るが、
空気は体を左右する。
古い毛が抜ける時、
古い空気も、
出ていく必要がある。
窓が少し開き、
換気がなされ、
エアコンは控えめに回る。
風は直接当たらぬよう、
向きが変えられた。
それだけで、
体は違う。
毛づくろいの回数が減り、
寝息が深くなる。
換毛とは、
捨てることではない。
整えることだ。
次の季節に、
無理なく移るための準備である。
吾輩は猫である。
抜け毛は増えたが、
不調ではない。
空気が整えば、
体も応える。
季節とは、
静かな対話なのだ。
毛が替わり
風が変わって
春になる