吾輩は猫である。
名前はまだない。
最近、
やけに優しい。
声が甘く、
撫でる時間が長い。
皿の上には、
いつもより香りの強い塊。
人間は微笑む。
「特別だよ」と。
怪しい。
吾輩は知っている。
世の中には、
目的のための甘さがある。
一口かじる。
旨い。
だが、
その奥に、
微かな違和感。
舌が、
真実を拾う。
噛まずに飲ませようとする手つき、
視線の揺れ、
過剰な励まし。
すべてが一致した。
これは、
薬だ。
投薬補助剤という、
実に巧妙な仕組み。
苦さを包み、
油断を誘う。
吾輩は、
一瞬考える。
吐き出すか、
受け入れるか。
体調は、
確かに少し重い。
人間は、
悪意ではなく、
心配である。
ならば、
今回は飲む。
だが、
次は騙されぬ。
吾輩は猫である。
罠には気づく。
だが、
必要ならば受け入れる。
信頼とは、
騙されたふりもできることだ。
甘さ裏
真実ひとつ
飲み込めり