吾輩は猫である。
名前はまだない。
車の前に、
小さな目が付いた。
黒く、
黙って、
ただ前を見ている。
人間はこれを、
ドライブレコーダと呼ぶ。
走るたびに、
すべてを記録する。
良いことも、
そうでないことも、
等しく残す。
忘れぬための装置だ。
人は、
記憶に頼る。
だが記憶は、
都合よく変わる。
少し丸くなり、
少し角が取れる。
機械は違う。
そのままを残す。
解釈も、
感情も、
持たぬ。
吾輩は思う。
記録とは、
正しさのためだけではない。
振り返るためにあるのだと。
急いだ瞬間、
迷った交差点、
ためらった一秒。
それらは、
後から意味を持つ。
常に見られていると、
人は少し丁寧になる。
運転も、
言葉も、
振る舞いも。
見られていなくても、
同じであれば、
それが一番良い。
吾輩は猫である。
記録はせぬ。
だが、
見ている。
静かに、
ただ見ている。
行いとは、
記録の有無ではなく、
積み重ねそのものなのだ。
記録より
日々の運転
まっすぐに