吾輩は猫である。
名前はまだない。
今日は、
いつもと違う場所にいる。
床が揺れ、
景色が流れ、
匂いが次々と変わる。
人間はこれを、
ドライブと呼ぶ。
猫にとって、
移動は目的ではない。
場所が変わること自体が、
一つの出来事だ。
最初は落ち着かぬ。
音も、振動も、
予測がつかない。
だが、
しばらくすると、
リズムが見えてくる。
一定の速さ、
一定の揺れ。
それがわかれば、
少し安心する。
窓の外には、
知らぬ景色。
通り過ぎるだけで、
手は届かぬ。
それでも、
見ていると飽きぬ。
人間は、
目的地を決める。
時間を読み、
道を選ぶ。
猫は、
今を見る。
次の角より、
今の光。
遠くの場所より、
この揺れ。
やがて、
車は止まる。
扉が開き、
空気が変わる。
それで、
一つの旅が終わる。
吾輩は猫である。
遠出は好まぬ。
だが、
揺れの中で整う時間は知っている。
ドライブとは、
進むことより、
変わることを受け入れる時間なのだ。
揺れの中
知らぬ景色も
我がものに