吾輩は猫である。
名前はまだない。
夜になると、
人間は集まり、
一人の言葉に耳を傾ける。
笑い声が、
波のように広がる。
人間はこれを、
芸と呼ぶ。
芸人は、
言葉で場を動かす。
間を取り、
声を乗せ、
一瞬で空気を変える。
吾輩は思う。
笑いとは、
なかなか高度な技術だと。
猫にも、
芸はある。
転びそうで転ばぬ動き、
無関心から急に甘える切り替え、
予想を裏切る振る舞い。
だが、
狙ってはやらぬ。
芸人は、
狙う。
計算し、
組み立て、
外すことすら織り込む。
猫は、
自然に外す。
だから、
時に面白い。
笑いとは、
完璧さの崩れに宿る。
少しのズレ、
少しの意外。
人間はそれを、
言葉で作る。
猫はそれを、
存在で起こす。
舞台の上では、
一人が多くを背負う。
静寂を恐れず、
次の一言を待つ。
それは、
なかなかの勇気である。
吾輩は猫である。
舞台には立たぬ。
だが、
場の空気を変える力は知っている。
芸とは、
人の心の重さを
一瞬だけ軽くする技なのだ。
笑いとは
少しのズレで
灯がともる