吾輩は猫である。
名前はまだない。
静かな会話の途中で、
急に歌が始まる。
感情が高まり、
言葉だけでは足りなくなると、
人は声を伸ばす。
人間はこれを、
ミュージカルと呼ぶ。
不思議な形式だ。
現実では、
突然歌い出す者はいない。
だが、
舞台では自然に見える。
なぜか。
感情が、
論理を越えるからだ。
説明するより、
響かせる方が早い時がある。
吾輩は思う。
伝えるとは、
言葉だけではないと。
声の強さ、
間の取り方、
身体の動き。
それらすべてが、
意味を持つ。
人間は、
正しさを語る。
だが、
届かなければ、
存在しないのと同じだ。
ミュージカルは、
過剰である。
だがその過剰が、
心に残る。
控えめなだけでは、
伝わらぬものもある。
吾輩は、
舞台の端に座る。
動かず、
ただ見ている。
それでも、
場の流れは感じ取れる。
吾輩は猫である。
歌は歌わぬ。
だが、
伝わる瞬間は知っている。
表現とは、
理解させることではなく、
感じさせることなのだ。
語るより
響かせたとき
届きけり