【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

吾輩は猫である ―元湯 沙羅の間編―

2026年6月17日

吾輩は猫である ―元湯 沙羅の間編―

吾輩は猫である。
名前はまだない。

静かな部屋には、
音が少ない。
畳の匂い、
障子越しの光、
遠くの湯の気配。

人間はここを、
「沙羅の間」と呼ぶ。

名は静かだ。
だが、
そこには
時間を緩める力がある。

座る。
ただそれだけで、
呼吸が少し深くなる。

吾輩は思う。
良い空間とは、
何かを足す場所ではないと。

削る場所だ。

音を減らし、
急ぎを減らし、
考えすぎを減らす。

すると、
本来の感覚が戻ってくる。

人間は、
常に満たそうとする。
予定、
情報、
言葉。

だが、
空白がなければ、
心は整わぬ。

沙羅の間には、
余白がある。
だから、
落ち着く。

窓の外を風が通る。
湯の音は遠く、
時間だけが静かに流れる。

それで、
十分だ。

吾輩は猫である。
宿は持たぬ。
だが、
整う空間は知っている。
沙羅の間とは、
何もしないことを
許される場所なのだ。


静けさに
削がれ整う
春の間


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gonta

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