吾輩は猫である。
名前はまだない。
水辺に、
一羽の大きな鳥が立っている。
ほとんど動かず、
遠くを見つめたまま、
時間だけが過ぎていく。
人間はこれを、
ハシビロコウと呼ぶ。
あまりに動かぬため、
何もしていないように見える。
だが実際には、
魚を捕らえる機会を逃さぬよう、
静かに待ち続けているらしい。
吾輩は思う。
待つことと、
動けないことは違う。
動けない者は、
機会が来ても動けぬ。
待っている者は、
その瞬間のために、
力を残している。
人間は、
動いていなければ不安になる。
忙しく歩き、
言葉を重ね、
何かをしている姿を見せようとする。
だが、
動くことだけが前進ではない。
よく見て、
よく考え、
ここぞという時に動く。
それもまた、
立派な進み方である。
ハシビロコウは、
派手に飛び回らぬ。
愛想を振りまかず、
急かされても、
自分の時間を崩さない。
それでいて、
必要な時には動く。
吾輩は猫である。
長く待つことには慣れている。
だが、
ただ止まっているわけではない。
ハシビロコウとは、
静けさの中に集中を蓄え、
訪れた一瞬を逃さぬ者なのだ。
動かずも
機を待つ眼には
風が立つ