【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

吾輩は猫である ―ハシビロコウ 編―

2026年8月4日

吾輩は猫である ―ハシビロコウ 編―

吾輩は猫である。
名前はまだない。

水辺に、
一羽の大きな鳥が立っている。

ほとんど動かず、
遠くを見つめたまま、
時間だけが過ぎていく。

人間はこれを、
ハシビロコウと呼ぶ。

あまりに動かぬため、
何もしていないように見える。

だが実際には、
魚を捕らえる機会を逃さぬよう、
静かに待ち続けているらしい。

吾輩は思う。

待つことと、
動けないことは違う。

動けない者は、
機会が来ても動けぬ。

待っている者は、
その瞬間のために、
力を残している。

人間は、
動いていなければ不安になる。

忙しく歩き、
言葉を重ね、
何かをしている姿を見せようとする。

だが、
動くことだけが前進ではない。

よく見て、
よく考え、
ここぞという時に動く。

それもまた、
立派な進み方である。

ハシビロコウは、
派手に飛び回らぬ。

愛想を振りまかず、
急かされても、
自分の時間を崩さない。

それでいて、
必要な時には動く。

吾輩は猫である。
長く待つことには慣れている。
だが、
ただ止まっているわけではない。
ハシビロコウとは、
静けさの中に集中を蓄え、
訪れた一瞬を逃さぬ者なのだ。


動かずも
機を待つ眼には
風が立つ


  • この記事を書いた人

gonta

-【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編