【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

吾輩は猫である ―豆腐インク 編―

2026年9月24日

吾輩は猫である ―豆腐インク 編―

吾輩は猫である。
名前はまだない。

人間は、
とうとう豆腐まで
印刷しようとしているらしい。

吾輩は最初、
聞き間違いかと思った。

インクといえば、
紙に文字を書くものである。

間違っても、
食卓に並べるものではない。

ところが人間は、
豆腐を材料にして、
三次元の形を作ろうとしている。

人間はこれを、
豆腐インクと呼ぶ。

食べられるインクである。

吾輩は思う。

そこまでして、
豆腐を立体にする必要があるのかと。

冷奴なら、
四角いままで十分ではないか。

醤油を少し垂らせば、
立派な一品である。

だが、
人間の考えていることは、
もう少し先にあるらしい。

食べる力が弱くなった者。

食べられるものに制限がある者。

同じ料理でも、
硬さや形を変えた方が食べやすい者。

一人一人に合わせて、
食べ物そのものを作り分ける。

そのために、
3Dフードプリンターを使う。

なるほど。

吾輩は、
少しだけ感心した。

人間は、
効率化のために機械を作る。

同じものを、
速く、
大量に作る。

それが工業というものだと思っていた。

ところが今度は逆である。

機械を使って、
一人一人違うものを作ろうとしている。

大勢に同じものを配るためではない。

その人に合った一皿を作るために、
機械を使う。

吾輩は思う。

技術とは、
案外こういう方向へ進むべきなのかもしれぬ。

猫にも、
好みがある。

カリカリ派。

ウェット派。

柔らかいものが好きな者。

同じ餌を出されても、
全員が同じ顔をするわけではない。

人間も、
同じなのであろう。

年齢も違う。

体も違う。

食べられるものも違う。

ならば、
食事まで一種類である必要はない。

豆腐インクなら、
形も変えられる。

柔らかさも工夫できる。

栄養も考えられる。

食べるという当たり前を、
諦めなくて済む人が増えるかもしれない。

ただし、
吾輩には一つだけ心配がある。

人間は、
新しい技術を手にすると、
すぐに何でも作りたがる。

星形の豆腐。

城の形の豆腐。

猫型の豆腐。

最後のものについては、
慎重にお願いしたい。

吾輩の顔を印刷して、
そのまま食べるなど、
少々複雑な気分になる。

吾輩は猫である。
豆腐は好物ではない。

だが、
食べることが難しくなった者にも、
「今日は何を食べよう」と選べる未来が来るのなら、
豆腐がインクになるのも悪くない。

豆腐インクとは、
食べ物を機械で作るためだけの技術ではない。

一人一人違う「食べたい」に、
技術の方から合わせていこうとする、
少し未来の食卓なのだ。


豆腐まで
刷って広がる
食の夢

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gonta

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