吾輩は猫である。名はまだないが、大阪の片隅でそこそこ長く生きている。
最近どうも町がそわそわしている。人間どもが「万博!万博!」と騒ぎ出したのはいつの頃からだったか。
「未来社会の実験場」だの、「空飛ぶクルマ」だの、吾輩にはよくわからぬが、何か大きな宴が開かれるらしい。しかも、莫大な金と時間をかけて作っておる。ニュースでは、予算が膨らんで目玉のパビリオンが間に合わぬとか、建設現場が暑さで大変だとか――人間は相変わらず、賑やかに自分で穴を掘っては埋めている。
「子どもたちの未来のため」と誰もが言うが、隣の空き地で遊んでいた子どもは、今日も砂埃まみれでおる。未来とは、遠くにあるものでなく、吾輩のひげ先にある一日一日ではなかろうか。
もっとも、吾輩にはちゅ~ると陽だまりがあればそれでよい。
空飛ぶクルマより、静かに眠れるダンボールの方が大切だ。
それでも、万博の夜に打ち上がる花火を見上げて、ほんの少しだけ思うのだ。
**「人間も、案外かわいらしい生き物である」**と。
夢を見て、失敗して、また立ち上がる。そういうところは、吾輩よりもむしろ犬に近いかもしれぬ。
だが夢を見る力は、どの種にも等しくあるのかもしれぬ。
吾輩だって、たまには空を飛ぶ夢くらいは見る。