吾輩は猫である。名はまだない。
十二月のある夜、
飼い主がこたつで鍋を囲んでいる頃、
吾輩はそっと窓から抜け出した。
今日は特別な日――
猫たちの、年に一度の 秘密忘年会 が開かれるのだ。
町内の猫たちが、
神社の裏のあずまやに次々と集まってくる。
茶トラ先輩は早くも酔ったような足取りで、
「今年もいろいろあったニャ〜」としみじみしている。
黒猫のクロは、
「今年の反省は“キッチン侵入の失敗回数”だニャ」と言い、
キジトラのミケは、
「わたしは健康診断を頑張ったニャ」と胸を張る。
それぞれの一年が、
猫草をつまむ音や、
カリカリの香ばしい匂いに混ざりながら語られていく。
吾輩もひとつ、
こっそり本音を話すことにした。
「吾輩は……飼い主の膝に乗れた回数が増えたことが嬉しいニャ。」
すると皆が「いい一年だったニャ〜」と温かくうなずいた。
猫にとって大切なのは、
大きな出来事ではなく、
日々の小さなぬくもりである。
やがて忘年会はお開きになり、
皆それぞれの家へ帰っていった。
吾輩も静かに戻ると、
飼い主が眠そうにこたつから顔を上げた。
「どこ行ってたの?……おかえり。」
吾輩はそっと膝に乗り、
あたたかい胸の音を聞きながら思った。
――また、いい一年にしよう。
吾輩は猫である。名はまだない。
だが、来年もこの家で、
ぬくもりとともに生きてゆく。
年越しに ぬくもり集う 猫の影