吾輩は猫である。名は――江田島平八郎である。
この家の者は皆、吾輩をただの猫と思っているようだが、
それは大いなる誤解である。
吾輩はこの家の秩序を守る総司令官、
すなわち“猫艦隊”の提督なのである。
朝は点呼から始まる。
飼い主が寝坊しても、吾輩は遠慮なく顔の上に乗り、
「起床ラッパ」を発令する。
食事の時間を過ぎた場合は、
規律違反として足にすり寄り強制執行だ。
日中の巡回では、
廊下を往復し、異常がないかを確認。
郵便配達員が来れば即座に警戒態勢、
冷蔵庫が開けば戦略的突入を試みる。
夕刻になると、飼い主がテレビをつけ、
軍艦のドキュメンタリーなどを眺めている。
吾輩はその前に座り、画面に映る艦影をじっと見つめる。
「ふむ、統率とは静けさに宿るものだな」
ひげを震わせながら、静かにそう呟いた。
だが夜になると、提督もただの猫に戻る。
柔らかな毛布の上で丸くなり、
夢の中で再び航海に出るのだ。
吾輩は江田島平八郎である。
名は堂々としており、使命は明確。
この家を守り、平和を維持すること――
それが吾輩の軍令である。
寝床にも 統率ありて 春の夢