吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ―猫と風呂 編―

2025年11月28日

吾輩は猫である ―猫と風呂 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

ある晩、飼い主が風呂場で歌をうたいながら湯を張っていた。
「いい湯だな〜♪」
湯気は白く、空気はほかほかしている。
吾輩はその様子を戸口から観察していた。
――風呂とは、人間がわざわざ温かい水に沈む奇妙な儀式である。

と、飼い主がこちらを見て言った。
「一緒にあったまる?」
冗談だと思ったが、
次の瞬間、吾輩は抱き上げられ、
湯船の上で“ぷらん”と宙に浮いた。

「ひっ!?」
もちろん吾輩は全力で拒否した。
足をばたつかせ、しっぽは膨らみ、
魂の奥から「無理である!」という声が湧き上がった。

飼い主は苦笑いしながら、
湯船には入れずに、手を濡らして背中を拭き始めた。
その手つきはやさしく、
温度も絶妙で、悪くない。

吾輩はそこで思った。
――風呂とは、湯に浸かることそのものではなく、
誰かに丁寧に扱われる時間のことなのだ、と。

風呂上がり、吾輩はタオルに包まれ、
飼い主の胸元でぼんやりと眠気に落ちた。
湯気の向こうに揺れる光が、やけに心地よかった。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが、風呂は嫌いでも“温もり”は好きである。

湯けむりや 手のぬくもりに 身をゆだね


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gonta

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