吾輩は猫である。名はまだない。
ある夜、飼い主がテレビを見ながらため息をついた。
「また原発を動かす話が出てきたか……」
画面では、議員たちが真剣な顔で討論していた。
吾輩には“原発”というものの仕組みはよく分からぬ。
だが、その言葉の響きには、
人間たちの不安と願いが同時に混ざっている気がした。
人は寒い冬に暖を求め、
産業に電気を求め、
未来の子どもたちには“安全”を願う。
それらがぶつかり合う場所に、
この問題は立っているのだろう。
吾輩はストーブの前に座りながら考えた。
電気がなければ、この暖かさもない。
しかし、あの日の恐ろしい映像を思い出せば、
人の心に影が残るのも当然だ。
飼い主がつぶやく。
「どっちが正しいとかじゃなくて……
ただ、誰も傷つかないようにできたらいいのにな」
吾輩はその膝にのり、喉を鳴らした。
人間は迷う。
迷いながら、少しずつ答えに近づこうとする。
猫は迷わぬ。
けれど、その背中に寄り添うことはできる。
吾輩は猫である。名はまだない。
だが、願うことはできる。
――この国が、静かで明るい灯りのもと、生きていけますように。
灯ともる 影も抱えつつ 春を待つ