吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ― 早く帰る編 ―

2025年6月27日

吾輩は猫である ― 早く帰る編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。
だが夕方五時を過ぎると、そわそわする。
なぜなら、飼い主が「まだ帰ってこない」からである。

あの人間は、朝の七時に出かけて、
夜の九時にようやく戻る。
「仕事が終わらないんだ」「残業は文化だ」
そんなことをぶつぶつ言っている。

猫にとって、日が傾けば“帰る”が自然である。
暗くなったら、冷えるし、カリカリも欲しい。
無理してまで“野良気取り”はしない。

ある日、飼い主がぽつりと呟いた。
「今日こそ早く帰ろうかな……でも上司が残ってるし」
吾輩はテレビ台からぴょんと飛び降り、
リモコンを落として知らせてやった。

“帰れ。今が、おぬしの時間じゃ”

次の日、飼い主は勇気を出して定時で帰宅した。
夕飯をちゃんと作り、ストレッチをし、
吾輩といっしょに毛布で丸くなった。

その顔は、まるで春先の猫のように、緩んでいた。

帰るとは 誰かの待つ場所 思い出す

忙しさは誰かの評価を得るためにあるのではない。
“待っているもの”があるから、帰るのだ。

吾輩は今日も、玄関の音に耳をすませている。
おかえり。それだけ言うために。


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gonta

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