吾輩は猫である。
名前はまだない。
人は、
語る。
出来事を、
他人を、
そして時に、
自分を。
だが、
語られる側に立つことは、
あまりない。
吾輩は思う。
語るより、
語られる方が難しいと。
語る者は、
選べる。
言葉を、
順序を、
強調する部分を。
だが、
語られる者は、
選べぬ。
どこを切り取られ、
どの角度で見られるかを。
同じ一日でも、
語る人が違えば、
まったく別の物語になる。
優しさは、
甘さに変わり、
慎重さは、
遅さと呼ばれる。
静けさは、
無関心と誤解される。
言葉は、
形を与える。
だが同時に、
削りもする。
吾輩は、
ただそこにいる。
何も足さず、
何も引かず。
それでも、
誰かの中では、
すでに物語になっている。
ならば、
せめて自分だけは、
自分を誤解せぬように。
吾輩は猫である。
語られることを避けぬ。
だが、
語られ方に囚われぬ。
本当の姿とは、
言葉の外にあるものだからだ。
語られて
残るものこそ
己なり