吾輩は猫である。名はまだない。
近ごろ飼い主が夢中になっているのが、
「鬼滅の刃」なる物語。
夜な夜な画面の前で涙をぬぐい、
吾輩のごはんを忘れるほどの熱中ぶりである。
どうやら人と鬼が戦う話らしい。
家族の絆、仲間の想い、己の誇り――
どれも猫には縁遠いようで、
しかし不思議と胸が熱くなる。
鬼が夜に現れるのなら、
吾輩こそ夜の番人である。
暗闇の中でひげを震わせ、
影の動きを追うその瞳。
もし吾輩が“猫滅隊”を結成すれば、
鬼どももたじろぐに違いない。
飼い主は「柱がかっこいい」と叫んでいる。
吾輩からすれば、柱とは爪を研ぐ場所である。
だがその名の通り、
人は支え合うことで強くなるのだろう。
吾輩は猫である。名はまだない。
だが夜明け前の静けさの中、
人も猫も闇を越えて歩む姿に、
ひとすじの光を見るのである。
闇を裂き 毛づくろいして 夜明け待つ