吾輩は猫である。名はまだない。
だが「社ネコ」と呼ばれている(らしい)。
きっかけはテレワーク。
飼い主が毎日パソコンを開き、電話に出たり、
「MTG入ります」とか言って静かになったり。
その横にぴたりと寄り添うのが、吾輩の日課だった。
会議中に顔を出せば「かわいいですね」と評判になり、
画面越しに“社員証つけて”という声もあった。
まさに吾輩、社風の一部と化していたのである。
だがある日、飼い主が言った。
「明日からは出社よ。会社、行ってきます」
……なぬ?
吾輩はどうなる?
職場の椅子も、デスクのにおいも知らぬまま、置いていかれるのか。
翌朝、スーツ姿の飼い主にすがるように足にまとわりついたが、
あっさりドアが閉まった。
日中の部屋は、音のない会議室のように静かだった。
キーボードのカタカタ音も、
「ちょっと黙っててね」の声も、ない。
仕事より そばにいること 働きたし
思えば、吾輩は“会社”そのものが好きというより、
働く飼い主と一緒にいるのが好きだったのだ。
夕方、帰宅した飼い主のかばんに頭を突っ込み、
書類のにおいを確かめる。
――やっぱり、現場の空気は違う。
「明日は在宅だから、一緒にいられるよ」
その言葉に、尾を一振りして応えた。