吾輩は猫である。
名前はまだない。
川上から、
大きな桃が流れてきた。
人間は驚き、
切ろうとする。
待て。
それは、
中から出る話だ。
人間の物語では、
桃から桃太郎が出るらしい。
鬼を退治し、
宝を持ち帰る。
だが、
もし桃から出たのが、
吾輩だったらどうする。
きびだんごを配るだろうか。
犬と猿と雉を従えるだろうか。
鬼ヶ島へ向かうだろうか。
否。
猫は、
徒党を組まぬ。
必要なら協力するが、
無理に仲間を増やさぬ。
鬼とは、
外にいるとは限らぬ。
欲、慢心、
過信。
それらは、
内側にも住む。
退治すべきは、
遠い島より、
近い油断である。
宝を持ち帰るより、
無事に帰ること。
勝つよりも、
続けること。
吾輩は、
桃から出ても、
まず昼寝をする。
焦らぬ。
鬼は、
急いだ者から狙う。
吾輩は猫である。
英雄にはならぬ。
だが、
鬼を増やさぬ生き方は知っている。
物語とは、
強さよりも、
賢さの話である。
鬼よりも
己の慢心
先に斬る