【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

吾輩は猫である ―猫じゃすり 編―

2025年12月21日

吾輩は猫である ―猫じゃすり 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

ある日、飼い主が
「ついに買っちゃった!」と言いながら取り出した細長い道具。
見るからに不思議な形をしている。
裏側はザラザラ、表はなめらか。
どうやらこれがウワサの “猫じゃすり” らしい。

吾輩は少し距離を置いた。
――知らぬ道具には慎重である。
しかし飼い主がやさしく声をかけ、
そっと吾輩の頬にあてた瞬間、
身体がびくりと震えた。

ザラッ……
ああ、この感触――
母猫の舌に似ているではないか。

毛並みが整うだけでなく、
胸の奥がふわりと溶けるような安心感が広がる。
これはただの道具ではない。
“甘えたい気持ち”をやさしく呼び起こす魔法の杖だ。

吾輩は気づけば喉を鳴らし、
飼い主に身体を預けていた。
「気持ちいい?」と聞かれ、
返事の代わりに、頬をじゃすりにすり寄せた。

ふしぎなもので、
あれほど慎重だった吾輩が、
今では箱を見ただけで尻尾を立てて駆け寄ってしまう。
信頼とは、こうして少しずつ深まっていくものなのだ。

飼い主は笑いながら言った。
「これで毛づくろいも楽になるね。」
いや、楽になるのは毛だけではない。
心も軽くなるのだ。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが、猫じゃすりを通じて
“甘える勇気”というものを知った。

じゃすり音 心をとかす 春やさしう言った。
「そなたを呼んだのは他でもない。
 ねこねこ王国に、いま最大の危機が迫っておる。」

なんと――
**「掃除機軍団」**が国境に迫っているという。
轟音とともに突き進み、
落ちている毛玉を容赦なく吸い込む恐るべき兵器。

王は続けた。
「勇敢なる猫よ。
 そなたに、王国を救ってほしい。」

吾輩はしばし考えた。
猫に勇敢さを求めるとは無茶だが、
ここで断っては名誉に関わる。
吾輩は静かに前足を一歩踏み出した。

戦いは——
なんと “にらみ合い” で終わった。

掃除機軍団は、
吾輩の怒りの毛逆立ちスタイルを見ると、
勝手に電源が落ち、静かに退散した。
恐れを知らぬ勇者とは、
案外、気迫だけで勝てるものらしい。

王国の猫たちは歓声を上げ、
吾輩を英雄として迎えた。
「これより汝に爵位を与える。
 名を――“ひざの上伯爵”とする!」

……正直、もう少し格好いい称号が欲しかったが、
ひざの上は好きなのでまあ良しとしよう。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが今日、ねこねこ王国の英雄となった。

王国に 毛玉舞い散る 春の宴


スポンサーリンク

  • この記事を書いた人

gonta

-【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編