吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ―日本一高い温泉 編―

2025年11月20日

吾輩は猫である ―日本一高い温泉 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

山の空気は薄く、風は澄みきっている。
飼い主が背負うリュックの中で、吾輩は小さく丸まっていた。
今日の目的地は「日本一高い温泉」――
空に一番近い湯だという。

山小屋を越え、岩を渡り、
ようやくたどり着いたその場所は、
まるで雲の中に浮かぶような静けさだった。
湯けむりが白く立ちのぼり、
あたりは硫黄の香りに包まれている。

飼い主が足を湯に浸す。
「あったかいねぇ」と微笑んだ。
吾輩はその膝の上にのり、
蒸気のぬくもりを毛並みに感じた。
風は冷たく、湯はやさしい。
この対照が、まるで人生そのもののようである。

空を見上げると、雲がゆっくり流れていく。
ここでは時間も声も、
すべてが小さく静まっていく気がした。
人が自然に身をゆだね、
自然が人を包みこむ――
温泉とは、そういう場所なのだろう。

吾輩は猫である。名はまだない。
けれど、湯けむりの向こうで感じた。
この世は思ったよりも広く、
それでいて、どこか懐かしい。

湯けむりに 空を映して 春を知る


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gonta

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