吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ― 猫と雷鳥 編―

2025年11月10日

吾輩は猫である ― 猫と雷鳥 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

立山の稜線を、白い霧が流れていく。
その中で、ふと雪のように淡い羽音が聞こえた。
見上げると、そこに一羽の鳥がいた。
羽は灰と白のまだら、目は小さく、
まるで雲の一部が命を得たような姿――雷鳥である。

吾輩は声をかけた。
「こんな高いところで、寒くはないのか?」
雷鳥は小さく首を傾げ、
「寒いけれど、ここが私の家です」と言った。
その声は風の音にまぎれて、
まるで山自身が語っているようだった。

吾輩はしばらく黙って隣に座った。
人も猫も鳥も、この山では皆、
同じ空気を吸い、同じ雲を見上げて生きている。
それが当たり前のようで、
とても尊いことのように思えた。

「あなたはどこへ帰るの?」と雷鳥が聞いた。
吾輩は考え、
「風の行くほうへ」とだけ答えた。
雷鳥は目を細めて笑った。
それが別れの合図だった。

霧が晴れると、もう姿はなかった。
ただ、遠くの峰の上で、
風がやさしく鳴いていた。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが、あの鳥の静かなまなざしの中に、
自然と生の調和を見た。

雷鳥や 雲をわたって 友となる


スポンサーリンク

  • この記事を書いた人

gonta

-吾輩は猫である(現代編)