吾輩は猫である。名はまだないが、今日は「リングキャット」なる大役を仰せつかった。
聞けば、これは人間の結婚式とやらで、指輪を新郎新婦の元へ届けるという重責らしい。
なるほど、可愛い衣装を着せられ、首輪に小箱をくくりつけられた吾輩は、今、バージンロードの入口で控えている。
「かわいい〜!」
「天使みたい!」
と、参列者どもが騒いでおるが、吾輩にとっては騒がしい音楽と見知らぬ匂いに満ちた修羅場である。しかもこの衣装、動きづらい。しっぽがまともに振れぬではないか。
だが、飼い主が「おまえだけが頼りなんだ」と呟いたのを、吾輩はちゃんと覚えている。
人間はときどき、真っすぐな目をする。それに応えるのも、悪くはない。
一歩、また一歩。
鈴の音を響かせながら、吾輩は堂々とバージンロードを歩く。
途中、花びらを追いかけたくなる衝動にかられたが、ぐっと我慢した。
新郎新婦の前にたどり着き、小さく「にゃ」と鳴いてみせると、会場は拍手喝采。
吾輩はやれやれとしっぽをひと振りし、くるりと背を向けた。
人間どもよ、今日という日を大切に生きるがよい。
指輪を運んだ吾輩が保証しよう。
猫一歩 愛をつなげる リング道
帰ったら、ごほうびのちゅ~るを頼む。これが吾輩の契約書である。