吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ― 元町白バイ体験 編 ―

2025年9月6日

吾輩は猫である ― 元町白バイ体験 編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。
元町の石畳を歩いていたら、広場に人だかりができていた。
眩しい白いバイクが並び、青い制服の警官たちが誇らしげに立っている。
どうやら今日は「白バイ体験」のイベントらしい。

子どもたちが順番に跨り、記念写真を撮っている。
エンジンは止まっているのに、
金属の光沢はまるで生き物のように力強い。
吾輩は興味に勝てず、警官の足元からスルリと飛び乗った。

「おや、猫さんも体験かい?」
周囲から笑いが起こり、シャッターの音が続く。
吾輩はハンドルの上で胸を張り、
しっぽを高く掲げて「安全第一!」の顔をしてみせた。

ヘルメットをかぶるわけにもいかぬが、
港から吹く風が頬を撫でると、
一瞬だけ本当に道路を疾走している気がした。
赤レンガの倉庫やマリンタワーを駆け抜け、
横浜の海を背にする自分の姿を想像してしまう。

やがてスタッフにそっと降ろされ、
「立派に務めたね」と撫でられる。
観客からも拍手が湧き、
吾輩は少し照れくさくて、
石畳の影にすぐ身を隠した。

だが心は熱かった。
吾輩は猫である。名はまだない。
けれど今日だけは――
元町を守る一日警ら隊員、白バイにゃんだったのだ。


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gonta

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