吾輩は猫である。名はまだない。
この頃、ご主人がやたらとカリカリを買い渋る。理由を問えば、「関税が上がってるからな」と鼻を鳴らす。何のことやら、さっぱりである。
しかしある日、吾輩はこっそりテレビという魔法の箱を覗き見た。画面の中で、人間たちが「輸入が高くなった」「うちの工場が困る」と吠え合っている。どうやら、国という大きな猫たちが「うちのモノが一番だ!」と睨み合い、互いの餌皿を引っ掻いているらしい。
なるほど、これは“にゃわばり争い”である。吾輩もかつて隣の三毛と魚の頭をめぐって小競り合いをしたものだ。だが、吾輩らの喧嘩はせいぜい尻尾が膨らむ程度で済む。人間たちは違う。相手の餌を高く売りつけ、自分の餌を押しつける。結果、餌の質も量も悪くなる。吾輩のカリカリも、いつの間にか「国産に切り替えた」などとご主人は言い出した。
美味くない。非常に、まずい。
それでも人間たちは、自分の正義を語り、相手の不義を罵る。実に滑稽である。猫であれば、喧嘩のあとには毛づくろいで和解するものだ。
吾輩は今日もまずいカリカリを前に、ただ一言、ため息をつく。
「にゃんとも、ならぬものよ」