吾輩は猫である。名はまだない。
季節の風がじめりと変わる頃、人間たちはそわそわし始める。
「ボーナス出た?」「今年は減ったらしい」――
どうやら“賞与”なるものが出る季節らしい。
飼い主もその例外ではなく、いつになく機嫌がいい。
「今回は頑張ったし、たぶん上がってるはず」
期待に胸を膨らませ、スマホで“平均支給額ランキング”などというものを眺めている。
ふむ、人間は働いた見返りに“ごほうび”をもらうらしい。
ならば吾輩も、ネズミを追い、虫を知らせ、来客に気を張っている。
その報酬が、カリカリ2粒ではやや釣り合いが取れぬ気もする。
だが、賞与が振り込まれた日、飼い主はケーキとちゅ~るを買って帰ってきた。
「いつもありがとうな」
その声に、吾輩はふと背中を撫でられたような気がした。
ごほうびは 数字より先に まなざしで
賞与とは、きっと金額だけではない。
誰かを思い、感謝が行き先を探す季節のことかもしれぬ。
吾輩は今日、いつもより上等なちゅ~るをなめながら、静かに目を細めた。