吾輩は猫である。名はまだない。
だがこの家の家計事情には、詳しいつもりだ。
ある朝、飼い主が給与明細を見ながら眉をしかめていた。
「うーん…住民税、今年から特別徴収かぁ…」
ふむ、それはつまり、給料から勝手に天引きされる方式である。
「自分で払ってる感じがしないのが嫌なんだよね」
そう言ってため息をつく飼い主に、
吾輩はカリカリを食べながら思った。
――払ってる実感がないなら、猫のごはん代も天引きで良いのでは?
だが人間界は、そう単純ではないらしい。
「去年はフリーランスだったから普通徴収だったけど…
今は会社員だから、勝手に持ってかれる…」
どうやら“自由”と“便利”は、いつも引き換えのようだ。
普通徴収 痛みで知る 税の意味
特別徴収 静かに抜かれる 猫の耳
どちらも納税には変わらぬが、
人間はその“見せ方”や“気づき方”にこだわる。
「猫はいいなぁ、税金ないもんね〜」と飼い主。
ふん、何も分かっていない。
吾輩だって、毎朝“自動で起こされ税”を徴収され、
“日中の膝貸し税”を強制的に納めている。
どちらが重いかは、…まあ猫の誇りとして黙っておこう。
今夜も飼い主は言う。
「どうせ払うなら、もっと透明にしてほしいよね」
――その気持ち、分からなくもない。
ただし吾輩は、カリカリさえ透明の容器に入っていれば満足である。