吾輩は猫である。名はまだない。
昨夜から雨がやまぬ。
縁側の外は白く煙り、
庭の土は水を吸って重く沈んでいる。
ただの長雨かと思っていたが、
飼い主のテレビから「線状降水帯」という言葉が流れた。
どうやら空の高みに、
雲が次々と連なり、
同じ場所に雨を落とし続ける仕組みらしい。
吾輩の眼には、空が破れて水が注いでいるようにしか見えぬ。
やがて雨脚は強まり、
屋根を叩く音は太鼓の連打のよう。
排水溝は溢れ、川は濁流となる。
吾輩は窓辺から動かず、
ただ耳を伏せてその音を聞いた。
自然の前では、
猫も人も等しく小さな存在に過ぎない。
それでも、ひとつ屋根の下で身を寄せ合えば、
不安も和らぐのだと知る。
夜明け前、雨はようやく弱まった。
東の空にかすかな光がにじむ。
被害が少ないことを祈りながら、
吾輩は毛を震わせて水滴を払った。
吾輩は猫である。名はまだない。
ただ、この一夜の雨を忘れず、
次に備える人間の知恵に寄り添って生きてゆく。
雲重なり 尽きぬ雨音 朝ぼらけ