秋晴れの昼下がり、主人が「出張だ」と言い残して玄関を出ていった。
玄関の扉が閉まる音が、まるで宇宙の果てで鳴ったように遠く響いた。
吾輩、留守番を任された。いや、押しつけられたのかもしれぬ。
午前中は余裕だった。
日向の絨毯の上で、背中を丸めて惰眠を貪る。
カーテン越しの風が尻尾をくすぐり、ああ、これぞ平和の極み。
しかし午後になると、部屋の静けさが急に重くなる。
冷蔵庫のモーター音が妙に耳につき、郵便受けの金属音に心臓が跳ねた。
人間という生き物は、案外この孤独に耐えられぬからこそ群れるのだろうか。
吾輩は猫だが、文明の根っこを少しだけ理解した気がする。
夕暮れ、腹が減った。
自動給餌機の前で座禅を組む。
「ピッ」という音がして、餌が一粒落ちる。
……一粒?
これは修行か、それとも試練か。
主人よ、AIに任せすぎではないか。
夜。
窓の外で風が鳴く。
カーテンの隙間から月が顔を出す。
吾輩は思う。
もしこの家に泥棒が入ったら、吾輩は吠えるべきか、それとも交渉すべきか。
――「魚を半分くれるなら、見なかったことにしよう」
そんな妄想をしているうちに、鍵の音がした。
主人が帰ってきた。
吾輩は寝たふりをする。
が、しっぽがゆらりと動く。
「ただいま」と言われると、
何でもない一日が、妙に報われる気がした。
留守番の 孤独も月も 主(あるじ)待つ