吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ― 猫の留守番 編―

2025年10月21日

吾輩は猫である ― 猫の留守番 編―

秋晴れの昼下がり、主人が「出張だ」と言い残して玄関を出ていった。
玄関の扉が閉まる音が、まるで宇宙の果てで鳴ったように遠く響いた。
吾輩、留守番を任された。いや、押しつけられたのかもしれぬ。

午前中は余裕だった。
日向の絨毯の上で、背中を丸めて惰眠を貪る。
カーテン越しの風が尻尾をくすぐり、ああ、これぞ平和の極み。

しかし午後になると、部屋の静けさが急に重くなる。
冷蔵庫のモーター音が妙に耳につき、郵便受けの金属音に心臓が跳ねた。
人間という生き物は、案外この孤独に耐えられぬからこそ群れるのだろうか。
吾輩は猫だが、文明の根っこを少しだけ理解した気がする。

夕暮れ、腹が減った。
自動給餌機の前で座禅を組む。
「ピッ」という音がして、餌が一粒落ちる。
……一粒?
これは修行か、それとも試練か。
主人よ、AIに任せすぎではないか。

夜。
窓の外で風が鳴く。
カーテンの隙間から月が顔を出す。
吾輩は思う。
もしこの家に泥棒が入ったら、吾輩は吠えるべきか、それとも交渉すべきか。
――「魚を半分くれるなら、見なかったことにしよう」

そんな妄想をしているうちに、鍵の音がした。
主人が帰ってきた。
吾輩は寝たふりをする。
が、しっぽがゆらりと動く。
「ただいま」と言われると、
何でもない一日が、妙に報われる気がした。

留守番の 孤独も月も 主(あるじ)待つ


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gonta

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