吾輩は猫である。名はまだない。
このところ、飼い主に新しい仕事ができたらしい。
「警護の仕事」と言っていた。
誰かを守るために、夜も外を歩く。
その姿は、いつもより少し頼もしく見えた。
帰りが遅くなる夜、
吾輩は玄関の前で耳を澄ませる。
鍵の音が聞こえるまで、
ただ静かに、息をひそめて待つ。
守るというのは、
たぶん待つことでもあるのだろう。
飼い主のスマホから聞こえる声――
それは、守る相手の女性のものだった。
「いつもありがとう」
その言葉に、飼い主の顔が少し赤くなった。
吾輩は気づかぬふりをしたが、
胸の奥が少しだけチクンとした。
恋と警護。
どちらも相手を想い、
そっと距離を保つもの。
強く抱きしめられなくても、
その人が無事でいるだけで満たされる。
飼い主が帰宅し、
吾輩の頭を撫でながら言った。
「お前も、留守番ごくろうさん」
吾輩はにゃあと鳴いた。
守る者を、今度は吾輩が守っているのだ。
吾輩は猫である。名はまだない。
だが、心の奥に確かに芽生えた想いがある。
それは――恋という名の、やさしい警護。
恋と守 どちらも同じ まなざしで