吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ― おこじょ 編―

2025年11月12日

吾輩は猫である ― おこじょ 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

雪が降り積もる山あいの村。
白銀の世界を歩く吾輩の前に、
小さな影がぴょんと跳ねた。

それは――おこじょ。
白い毛並みに黒い尻尾、
雪の中をすばしこく走る小さな生き物である。

「寒くないのか?」と吾輩が声をかけると、
おこじょは振り向いてにやりと笑った。
「雪の中こそ、わたしの道。足跡が風になるんだ」
その言葉に、吾輩は舌を巻いた。
人も猫も寒さを避けて家にこもるが、
おこじょは冬を生きる達人なのだ。

夜になると、山は静まり返る。
吾輩は屋根の上で星を眺め、
おこじょは雪穴の中で丸くなる。
それぞれの場所で息づく命。
互いの気配だけが、
山の静寂をやさしく照らしていた。

やがて春が訪れるころ、
おこじょの白い毛は少しずつ茶色に変わる。
「また来年、雪の道で会おう」と言って、
彼は森の奥へ消えていった。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが、あの小さな背中が教えてくれた。
冬を恐れぬ者だけが、
春の光をまっすぐ見られるのだと。

雪原に ひと跳ね残る 春の兆


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gonta

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