吾輩は猫である。
名前はまだない。
朝の光が、
少し長くなった。
窓辺の温度が、
昨日より柔らかい。
人間はこの日を、
春分の日と呼ぶ。
昼と夜が、
同じ長さになるらしい。
光と影が、
一度だけ
釣り合う日だ。
猫にとって、
それは
なかなか良い日である。
長すぎる夜も、
短すぎる昼も、
どちらも
少し疲れる。
均衡とは、
心地よいものだ。
人間はこの日、
祖先を思い、
季節の境目を感じ、
静かに手を合わせる。
冬は去り、
春が来る。
それは急がず、
しかし確実に進む。
庭の空気も、
風の匂いも、
ほんの少し変わった。
吾輩は、
窓辺で丸くなる。
陽は柔らかく、
影も優しい。
世界が
少し整った気がする。
吾輩は猫である。
暦は読まぬ。
だが、
光の変化は知っている。
春分とは、
世界が静かに
均衡を取り戻す日である。
昼夜等し
猫の寝息も
春の音