吾輩は猫である。
名前はまだない。
冬になると、
部屋の中心に
一つの熱が置かれる。
目には見えぬが、
確かに暖かい。
人間はそれを、
石油と呼ぶ。
地の底から来たものが、
火を得て、
空気を変える。
冷えた指先が緩み、
言葉も少し柔らかくなる。
猫は、
暖かさを知っている。
最も効率のよい場所を、
自然に選ぶ。
近すぎれば熱い。
遠すぎれば届かぬ。
その間に、
ちょうどよい一点がある。
人間の世界も、
似ている。
便利なものは、
扱いを誤れば
危うい。
石油は、
力である。
動かし、
温め、
支える。
だが、
制御を失えば、
一瞬で変わる。
だから人は、
距離を取り、
換気をし、
慎重に扱う。
暖かさとは、
ただの快適ではない。
管理された力の結果である。
吾輩は、
そのそばで丸くなる。
火は見えぬが、
確かにある。
それで十分だ。
吾輩は猫である。
石油は知らぬ。
だが、
力との距離は知っている。
暖かさとは、
制御された危うさの上に
成り立つものなのだ。
近づけば
遠ざけても
火は恵み