吾輩は猫である。
名前はまだない。
机の上に、
丸いものが置かれた。
切られると、
中に幾重もの層が現れる。
人間はこれを、
バームクーヘンと呼ぶ。
年輪のようだと、
人間は言う。
時間が、
甘く重なっているらしい。
一層一層は、
薄い。
それだけでは、
特別なものではない。
だが、
重なれば、
形になる。
吾輩は思う。
日々も同じだと。
一日では、
変わらぬ。
一回では、
差は出ぬ。
だが、
積み重ねれば、
やがて輪になる。
人間は、
急ぎたがる。
厚く、
早く、
一気に形を作ろうとする。
だが、
焼きすぎれば焦げ、
急げば崩れる。
適度な火、
適度な時間。
それを守ることが、
美しさにつながる。
切り分けると、
どこを見ても同じ層。
均一とは、
誤差を積み上げなかった証だ。
吾輩は猫である。
甘いものは食べぬ。
だが、
重ねる価値は知っている。
人生とは、
見えぬ層を
静かに焼き続けることなのだ。
重ねれば
甘さも形に
なりにけり