吾輩は猫である。
名前はまだない。
小さきものが、
よく動く。
音もなく現れ、
突然走り、
突然止まる。
人間はそれを、
子猫と呼ぶ。
すべてが初めてだ。
匂いも、
音も、
光も。
世界はまだ、
広すぎる。
だから、
よく転ぶ。
よく迷う。
そして、
よく学ぶ。
吾輩は思う。
未熟とは、
欠けていることではないと。
これから満ちる、
余白である。
子猫は、
遠慮を知らぬ。
だが、
恐れも少ない。
その一歩が、
世界を広げる。
やがて、
動きは落ち着き、
距離を覚え、
間を知る。
だが、
最初の無垢な一歩は、
戻らぬ。
人間は、
成長を求める。
だが、
始まりの勢いも、
また価値である。
吾輩は猫である。
子猫ではない。
だが、
あの頃の動きは覚えている。
子猫の日とは、
未完成の強さを
思い出す日なのだ。
転びつつ
広がる世界
春の足