吾輩は猫である。
名前はまだない。
盤の上は、
静かである。
だが、
その静けさの中に、
多くが詰まっている。
人間はこれを、
一手と呼ぶ。
ただ置くだけ。
だが、
戻せぬ。
その前に、
いくつもの道があった。
どれも正しそうで、
どれも危うい。
選んだ瞬間、
他は消える。
吾輩は思う。
一手とは、
決断の形だと。
考え、
迷い、
読み、
そして、
最後に置く。
そこには、
これまでのすべてが現れる。
技術も、
経験も、
性格も。
隠せぬ。
軽く置けば、
軽い結果になる。
重く置けば、
その分だけ影響も大きい。
だが、
重さを恐れていては、
進めぬ。
人間は、
正解を求める。
だが、
その場での最善はあっても、
絶対はない。
それでも、
置く。
吾輩は猫である。
盤は持たぬ。
だが、
戻らぬ一歩は知っている。
一手の重みとは、
選んだ後に
引き受けるものなのだ。
置いた後
重みを知って
進みけり