【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

吾輩は猫である ―へぎそば 編―

2026年10月1日

吾輩は猫である ―へぎそば 編―

吾輩は猫である。
名前はまだない。

人間は、
蕎麦まで美しく並べたがる。

一口ずつ、
くるりとまとめ、
木の器に整然と並べる。

人間はこれを、
へぎそばと呼ぶ。

主に新潟で親しまれ、
布海苔をつなぎに使うことで、
独特のつるりとした食感が生まれるらしい。

吾輩は思う。

蕎麦とは、
もっと無造作に食べてもよいのではないかと。

だが、
目の前に並んだ姿を見ると、
なるほど悪くない。

一口。

また一口。

最初から量が決まっているので、
食べやすい。

猫で言えば、
小皿に少しずつ分けられた餌のようなものである。

しかも、
見た目は涼しい。

つるり。

するり。

暑い日でも、
箸が進む。

吾輩は思う。

美味しさとは、
味だけではないのだと。

盛り方。

器。

喉越し。

一緒に食べる者。

それら全部で、
一つの料理になる。

人間は、
腹が減れば何でもよいと言うことがある。

だが、
本当に何でもよいなら、
こんなに綺麗には並べまい。

食べる前から、
もう楽しんでいるのである。

そして、
一口ずつ並んでいるからこそ、
ついもう一つ。

もう一つ。

気づけば、
へぎの上が寂しくなる。

猫のおやつと、
よく似ている。

吾輩は猫である。
蕎麦は食べぬ。

だが、
一口ずつ大切に並べられたものが、
最後にはきれいになくなる光景には親しみを感じる。

へぎそばとは、
ただ腹を満たす蕎麦ではない。

つるりとした喉越しと、
整った見た目と、
「もう一口」を楽しむ、
少し粋な食べ方なのだ。


へぎの上
並ぶ一口
消えてゆく

  • この記事を書いた人

gonta

-【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編