【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

吾輩は猫である ―住宅引越し 編―

2026年10月5日

吾輩は猫である ―住宅引越し 編―

吾輩は猫である。
名前はまだない。

ある日、
家の中に箱が増え始める。

昨日まで棚にあったものが、
次々と姿を消す。

人間はこれを、
引っ越しと呼ぶ。

吾輩は思う。

ずいぶん落ち着かない。

見慣れた匂いが減る。

いつもの寝床が動く。

人間も、
妙に忙しい。

捨てる。

詰める。

運ぶ。

そして、
また出す。

最初から動かさなければよいのではないかと、
少し思う。

だが、
人間には事情があるらしい。

広い家へ。

近い職場へ。

新しい街へ。

家族の都合で。

人生の節目で。

家を変える理由は、
一つではない。

吾輩にとっては、
理由よりも問題がある。

ここは、
どこなのだ。

新しい家に着いても、
すぐには安心できぬ。

知らない音。

知らない匂い。

知らない窓。

まず、
安全な場所を探す。

隠れる。

様子を見る。

それから、
少しずつ歩く。

人間は、
早く慣れてほしいと思う。

だが、
吾輩は思う。

慣れるとは、
急がせるものではない。

昨日までの家には、
何年分もの安心があった。

新しい家には、
まだ一日分しかない。

時間が必要なのである。

人間も、
案外同じではないか。

新しい住所。

新しい道。

新しい隣人。

新しい生活。

期待はある。

だが、
少し不安もある。

引っ越しとは、
未来へ進むことでもあるが、
慣れたものを手放すことでもある。

だから、
少し寂しい。

それでよい。

吾輩は猫である。
住所変更の手続きはせぬ。

だが、
新しい場所が「我が家」に変わるまでには、
時間が必要なことは知っている。

住宅引越しとは、
荷物を移すことではない。

安心して眠れる場所を、
もう一度つくり直すことなのだ。


箱ほどけ
新しき家が
巣になりぬ

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gonta

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