吾輩は猫である。
名前はまだない。
玄関の音がして、
いつもの気配が消える。
部屋は静かになる。
人間はこれを、
留守番と呼ぶ。
最初は、
少し歩き回る。
窓を見て、
お気に入りの場所へ行き、
また戻る。
そのうち、
静けさにも慣れる。
吾輩は思う。
待つことも、
信頼の一つだと。
いつ帰るかは、
わからぬ。
だが、
帰ってくることは知っている。
だから、
安心して眠れる。
人間は、
「寂しくない?」と聞く。
もちろん、
少しは寂しい。
だが、
一番嬉しいのは、
玄関の鍵が回る音だ。
「ただいま。」
その一言で、
部屋の空気が変わる。
猫は、
大げさには喜ばぬ。
少し近づき、
足元を歩き、
そっと体を寄せる。
それで十分。
吾輩は猫である。
留守番は得意だ。
だが、
帰る場所がある幸せは知っている。
留守番とは、
一人で過ごす時間ではなく、
「帰ってくる」と信じて待つ時間なのだ。
待つ時間
ただいま一つで
花が咲く